でも、そんな単純なモノじゃなかったんですね。悪者とはいえもとは人間、その人間の邪まな心が目覚めさせ、生み出した怪物たちと戦い続けるサイボーグ戦士たち。人間を守るためとはいえ、人間がいる限りその戦いは果てしなく続いていく・・・。いろいろと考えさせられる、重く深い物語だったんですね。
この秋田文庫版第1巻には、北欧神話に題材を得た「エッダ編」をメインに「グリーン・ホール編」「怪奇星編」「ディノニクス編」の4編がおさめられていて、どれもメッセージ性の強いものばかりです。特に「怪奇星編」は、サイボーグ戦士が009と私のヒイキの006の二人しか登場せず、さぞや006が大活躍を、と思いきや、これが全く活躍せず、いつものままの006でした(笑)。
マンガを読んで人の在り方を考える、などと言うと大げさでバカバカしいと思われるかもしれませんが、これを読むことでどう感じるか、サイボーグ戦士たちに人間性を問われているように思えてなりません。
「クビクロ」は、ジョーと「クビクロ」と名付けた、頭のよい、否、よすぎる犬との物語。これも哀しいはなしです。
他に「風の都」と「海の底」を収録。「風の都」では007ことグレート・ブリテンの名戯曲の朗誦が涙を誘います。「海の底」ではジョーが海難事故から海底都市の秘密に迫ります。どちらもドキドキするような物語です。
ただ、これはこの3巻に限らない秋田文庫版の根本的な問題点なのですが収録作品が発表順ではない事による、とっつきにくさあります。それを加味して、1点マイナスと致しました。
海底ピラミッドグループに継ぐ第三勢力の存在が全く出てこなかった点です。勿論そこらの凡百のマンガよりははるかに面白いのですが、009として作品を評価するなら優良可の内の可というところだと思います。
人間の欲望のために生まれ、欲望のために戦い続けなければならないサイボーグ戦士たち。完結させることなく亡くなってしまわれた作者・石ノ森章太郎さんは、この戦士たちにどのような安息の場所を用意していたのでしょうか、とても気になります。
描かれています。しかしそれらの悲しみを噛み締めつつ尚、希望を求めて前へ進もうとする9人の戦士達の姿を見るからこそ、人は感動とともにこう嘆息するのだと思います。「サイボーグ戦士誰が為に戦う」と。
旧・黒い幽霊団による悪事が戦争に限られていたのに対して、新・黒い幽霊団は環境問題やバイオテクノロジーなんかにもしゃしゃり出て、様々な悪事を仕掛けます。これによってシリーズのテーマの幅が大いに広がりました。
『ザ・ディープ・スペース編』は10章から成り立っていて9人のサイボーグ戦士とギルモア博士がそれぞれ不思議な惑星に辿り着くという内容。各人が着く惑星は各人の個性を反映しており、特にメンバー達のトラウマの投影というような趣きになっています。これを読むとサイボーグ戦士たちをより陰影に富んだ存在として捉えられるようになるでしょう。
他の作品群はいずれも短編で、少年サンデー掲載時期の後期にたくさん書かれた『ホテル』的な人間ドラマです。『イルカと少年編』は手塚治虫の『ブラック・ジャック』の『シャチの詩』によく似てますね。
『スター・マーメイド伝説編』は長編で、宇宙に連れ去られた009達が2つの種族の戦争に巻き込まれる話。戦争は新たな戦争を招くだけであり、戦争によって戦争を終わらせることは決してできないことを訴える秀作です。
他の6編はいずれも短編で、サイボーグ達の日常生活を描いた作品。戦闘は一切ありませんが、いずれも作者の深い人間愛が表現された短編たちです。007を主人公にした『変身編』が切ないです。
未完の大作『神々との闘い編』のプロットは、アーサー・C・クラークの『幼年期の終わり』あたりを思わせるものです。地球の進化は高等な宇宙人によって操られたもので、彼らの存在が太古の人間から受け継がれる中で“神”と呼ばれるようになったというものです。但し、ここに出てくる神=宇宙人には邪悪な面もあり、自分達が進化に関与しているという秘密に近づいた者は殺してしまうのです。009達が偶然この秘密に近づいてしまい、神=宇宙人との全面対決が避けられなくなったところで残念ながら連載は中絶しています。
宇宙人との戦いというのはSFマンガとしては決して突飛なものではありませんが、ここでは彼らを“神”として位置づけている為か、哲学的で重々しいムードに満ちあふれています。
この作品は元々『天使編』(本文庫では23巻に収録)として書き始められたものの中絶してしまい、構想を新たにして再度書かれたものですが、『天使編』と同じ運命を辿ってしまいました。晩年の石ノ森氏は完結編のプロットを書き始めており、その一部がテレビ東京のアニメで放映されましたが、作者の死によって永遠に完結しないこととなってしまいました。
もともとは本巻が最終巻になる予定だった為、残り物的な作品が多いことは否めません。大部分の話が『ホテル』あるいは『ブラック・ジャック』を思わせるヒューマン・ドラマで、別に009達が登場しなくても成り立ちそうな感じです。「009を書いて欲しい」という出版社からの要望が強いんでしょうね。
そんな傍系的な作品群ではありますが、これらのエピソードによって009達の人間性に様々な角度から光が当てられる結果となり、読者としては彼らにをより身近な存在として感じられるようになるという効果を持っています。
009ファン以外には勧めませんが、ファンなら持っていたい一冊です。
一方の『ロマンノヴェルズ編』は酒井あきよし氏による小説で、『地下帝国ヨミ編』をベースにした物語です。穴埋め的に収録されたことは否めませんが、小説という媒体の性質上やや大人びた筆致であり、009と003の恋愛がマンガよりもリアルに描かれるなど、興味深い作品です。
このデータは、06年02月12日0時41分52秒現在のデータであり、現時点では変更されている可能性があります。